音楽好きなら誰でも知っているノラ・ジョーンズのデビューアルバム。1曲目の「Don't Know Why」はあまりにも有名な曲だが、実はこのアルバムは珍しいくらいに音が悪い。音のダイナミックレンジの圧縮の激しさや声の飽和など全く聴くに堪えない。特に彼女の声がまるでトランシーバーを通して聴いているかのように聴こえる。カーステレオやiPodなどで聴く分には良いがまともなステレオで聴くとその音作りの荒さには閉口してしまうのだ。
だが曲はとても好きなのでCDではなくSACDの方を買ってみた。CDと比較してダイナミックレンジが広く器が大きい為にまともに聴けるかも知れないという期待を持って。
しかしその期待も曲が始まって10秒で裏切られた。CDの音質と全く変わらないのである。そんなはずは無い、と思って色々試してみたりディスクがSACDだと再確認して聴いてみても、全くダメな音なんである。これはどうしたことか・・・
こんな風に思っている人間は私だけじゃないはず、と思ってネットを検索してみると、Stereophile誌に
こんな記事があった。
記事によるとこのアルバムはアナログで録られ、マスターテープからCD規格である16bit/44.1kHzに落とされた後、事もあろうかそのデータをそのままSACDに流用したと言うのだ。そしてSACD盤に含まれている5.1chのサラウンドも単にソフトウェアで処理した「エセSACD」だという衝撃的な事実が判明した。実際Stereophile誌の筆者も「世紀の詐欺」だと断じている。本来SACDを制作する場合はマスターテープからDSD変換して全く新しい音源を創るのが常識だ。16bit/44.1kHzに間引きされたデータを単にソフトウェアでDSD変換してSACDとして売り出す、これでは詐欺だと言われても仕方がない。
オーディオファイルを馬鹿にしたこの「SACD」、本来なら返金訴訟ものだと思うのだがどうもそのような動きは無い。元々音が悪いのは腕が悪いかセンスが無いかiPodだけを念頭に置いた為かと思ってきたが・・・。このような恥知らずなプロダクションはもっとバッシングされるべきだ。
ちなみにオーディオ業界ではこういった詐欺がまかり通っている。「オーディオ用」と一行印刷するだけで「非オーディオ用」と比較して価格が10倍なんて事もある。オーディオマニアの悪い習性として「高いものじゃないと信用しない」と言うのがあり、見方によっては仕方が無いのかも知れない。個人的にはそのような罠にはかからないように用心しているつもりだ(このCDでは騙されたが)。