贔屓にしているオーディオ屋から「リスニングルームの機器を入れ替えるので遊びに来ませんか?スピーカーセッティングのプロが来るので楽しいと思いますよ。」と連絡を受けた。ちょうど今Elipsaのセッティングをあれこれ試しているところなので、願っても無い話だ。
模様替えをするという部屋はこの店の中で一番大きな部屋で、中にはSonus faber Amati Anniversario、Sonus faber Elipsa、B&W 800 Diamond、B&W 802 Diamond、Vienna Acoustics The Kiss、そしてMartin Loganのスピーカー(モデル不明)。アンプやソースはほぼ全てMcIntoshのハイエンド。私が到着した頃にはElipsaとThe Kissのセッティングを残すのみとなっていたが、私の目当ては当然Elipsaだ。
セッティングをする人はアメリカでSonus faberやSMEなどの総代理店であるSUMIKOでスピーカーセッティングの資格を持つ人。興味津々でどのようにセッティングするのか見ていたが、箇条書きにすると:
・最初にスピーカーを壁に付ける
・ソースは低音を豊富に含む女性ボーカルのジャズを使う
・ソースをモノラルにして片チャンネルから大きめの音量で再生
・まずは低音以外は無視して壁から徐々に離し始る
・低音がもっとも良くなる場所でストップ
・次にリスニングポジションに合うように少しずつ内振り角度を調整
・内振りが決まった後はスパイクを調整して上下の角度を微調整
これを両方のチャンネルで繰り返し、両方のチャンネルから音を出して確認。最後はステレオに切り替えて最終調整。というのが一連の流れ。
上の写真の状態でElipsaのセッティングは完成。
スタートから完成まで時間にして10分程。非常に手際良くあっという間に終わらせたという印象。まさに職人芸。感心したのはメジャーやレーザーなどの小道具は全く使わず、自分の耳だけで素早く調整していくこと。この部屋は私の部屋より大きい為にスピーカー間の距離がかなりある。その為に音の広がりは相当なもので、定位も素晴らしく実に見事な鳴りっぷりで心から感動してしまった。私もSUMIKOで訓練して欲しいものだが、残念ながら一般には実施していないトレーニングなので無理とのこと。残念。
Elipsaと組み合わされていたのはPrimareのCDプレーヤーとMcIntosh MA7000というプリメインというシンプルな構成だが、これで十分以上だと思った。Elipsaから9時の方向にはAmati Anniversarioがあり、McIntosh C500、MC1.2KW、MCD500という1,000万クラスの組み合わせ。上の写真で赤い服を着た人が「AmatiよりElipsaの方がうまく鳴ってんじゃん」と言うではないか。私は遅れて来たのでAmatiがどんな風に鳴っていたのか知らなかったので、Amatiで同じ音楽を掛けてもらった。Amatiの方はElipsaとは音の「鳴り方」が随分違う感じで、私はElipsa以下とは思わなかったが、Elipsa以上だとも思わなかった。ただAmatiの方がスピーカー間の距離が狭いために広がり感が劣る感じがしたが、定位感はこちらの方が上だ。ボーカル物を聴くならAmati、クラシックならElipsaというのが全員の一致した意見。しかし両者の組み合わせの価格差は3倍。どちらにするかは、財布の具合と何を求めるかで変わってくるだろう。この結論にはオーディオ屋の店長が苦笑いをしていた。ちなみにAmatiはスピーカー間をこれ以上離すと中抜けを起こすので、音の広がりを考慮するとこの状態が一番らしい。反面、Elipsaは上の写真のようにかなり離しても中抜けを起こさず、広い部屋でも狭い部屋でもセッティングの自由度はかなり上だと言っていた。
その後、去年出たばかりのB&W 800 Diamondと802 Diamondも試聴した。以前Elipsaを購入する際に徹底的に比較した時と大きく印象は変わらなかった。B&Wの音はとても透明で「音質」だけ見るならElipsaよりも上だと思う。しかしグッと来るものが相変わらず感じられない。この「グッと来るもの」というのはデータでは表せないし測定する事もできない個人的な感覚だが、B&Wで聴いていて音楽が楽しいと思えないのはある意味致命的だ。
ついでにMartin Loganも聴いてみた。Martin Loganは静電型平面スピーカーの代表格だが、その音は明るすぎて全く好みに合わない。バイオリンの音など耳をつんざくような激しく鋭い音で、1曲聴いて終わりにした。面白い事にアメリカのハイエンドオーディオ店の店員に「キミは何を使ってるの?」と聞くとほぼ必ず「Martin Loganの何々」と答える。私はこれが不思議で仕方なかったが、とうとうその理由を知る事ができた。何とMartin Loganは店員に無料でスピーカーを提供していたのだ。もちろん完全にタダという訳ではなく、Martin Loganを売った台数と金額に応じてポイントがもらえ、そのポイントに応じた機種をもらえるのだ。道理でやたらMartin Loganを奨めるセールスマンが多い訳だ。店に奨められたからと言ってハイハイと言う事をきかない方が良い。これは日本でもある程度当てはまりそうだ。
家に帰ってきて我が家のElipsaのセッティングを見直したのは言うまでもない。しかしリビングで使っている為に、結局元のセッティングが最適という結論で落ち着いた。やはりスピーカーの持つポテンシャルを全て引き出そうと思うと、専用室が必要になる。結局行くつく所はそこであった(苦笑)