巷では「マッキントッシュはジャズ向き」というのが一般セオリーと化している日本だが、ここアメリカではそんな事は全然無い。ジャズに適したオーディオの代名詞が「マッキンとJBL」というのが日本のステレオティピカルなイメージだけど、本当にそうなんだろうか。我が家には17年前のマッキンと最新のマッキンがあるが、聴き比べると音が随分違う事に気付かされる。
我が家にある旧いMcIntosh MC7150は、まだ60,70年代のマッキンの面影を多少残していて太くて力強い音。濃い、とかビロードのような、とか色々形容されるが、個人的に表現するなら太い筆で描いた相撲番付表みたいな印象だ。そこには男性的な力強さがあり、コブシの利いた躍動感を感じる。これはマッキンの味であり、こういう骨太の音は「なるほど、ジャズに合うというのもうなづけるね」と感じる。
オーディオは味付けのある機械である以上、合うもの、合わないものがどうしてもあると思う。昔のマッキンのように図太い音だとジャズは迫力があってもクラシックのように繊細な表現力が求められる音楽には向いているとは思えない。昔のマッキンは相撲番付表のような力強い筆遣いができても、豊かな陰影によって表現される繊細な水墨画は苦手とする。旧いマッキンではジャズ以外はあまり聴く気になれないのは、この表現の違い(優劣の差ではない)から来るものだと思う。
ところが最近最新式のMC275とC2300を導入したところ、昔ながらのマッキンの印象は随分変わった。インターネットでは「ワイドレンジで現代化された音」という意見を散見するけど、間違っていないと思う。最近のマッキンは音の「芯」そのものは疑いようのないマッキンの音がするけれど、同時に音の陰影をもうまく表現できる繊細さも合わせ持っていると思う。昔のマッキンと違って、マッキンでもクラシックがすごく気持ちいい。中域の音は自然で芯があり、高域似も透明感が伴う現代的な音だ。チェロの音は官能的で、オケは感動的。
昔ながらのマッキンが奏でる脂っこい音のジャズが好きな人には物足りないかも知れない。これは豚骨ラーメン愛好家が醤油ラーメンを食べた時に感じる物足りなさに似ているんだと思う。「どっちかひとつにしろ」と言われたらすごく迷うところだ。やっぱり食べ物もオーディオも気分とジャンルによって選べるのがいい。すごく贅沢だけど、それが趣味ってもんです。