ロシアのマリインスキーレーベルより、ゲルギエフ指揮マリインスキー劇場管弦楽団の演奏によるチャイコフスキー「1812」の新譜を買った。ゲルギエフと言えば荒々しい演奏が多いが、この「1812」はそれ程でもない。ただテンポはゲルギエフらしく速め。個人的にはリッカルド・ムーティーの「1812」がスタンダードだが、このゲルギエフの演奏はそれに次ぐ名演だと思う。クライマックスの大砲や鐘の音は、マルチチャンネルで聴くとまるで歓喜あふれる民衆に囲まれた街中にいるような気持ちになる。大砲は左右・センター・そしてリアから次々と撃たれ、これは生演奏では有り得ない音響だがミックスの過程でそのような音作りがされたのだろう。「1812」の大砲はグランカッサの一撃では迫力が足りず、グランカッサの片方を抜いて音量を稼いだり、本物の大砲を使ったり、最近ではシンセサイザーで後から追加したりと様々な工夫がされている。グランカッサの場合でも大砲の音だけは別に録音してレベルを上げた状態で後から追加されるのが一般的だと言う。このアルバムの大砲は「ドカン」という衝撃音は控えめだが、地響きのような重低音が地を這うように伝わってきて腕の産毛が震えるのを感じる。サブウーファーを見ると大きく動いている。恐らくシンセサイザーが使われているのだと思う。
「1812」の他には「モスクワカンタータ」、「スラヴ行進曲」、「戴冠式祝典行進曲」、「デンマーク国歌による祝典序曲」が収録されている。
このアルバムは今年の2月に収録されたものだ。マリインスキーレーベルはオーディオファイルも認める高音質が自慢だが、確かにマルチチャンネルの技術はレベルが高い。SACDが登場した1999年から数年間はレーベル側も試行錯誤を繰り返した結果、妙なマルチチャンネルも多かったが10年後の現在では大変素晴らしい録音が楽しめるようになった。SACDの裏面に「(c) 2009」と見ると嬉しくなる。現時点でクラシックを最高音質で聴けるSACDフォーマットで更に多くの新譜が出てくることを心より望む。