エリプサをぐっと前に引き出してからというもの、チェロの響きが以前にも増して魅力的になった為に毎日チェロばかり聴いている。ウィーンアコースティックのT-3Gではこの響きは出ない。これはバッフルが狭いタイプのスピーカーでは出ない響きだと思う。性能うんぬん以前に、箱の形による根本的な違いだと感じる。もちろん、バッフルが狭いスピーカーにはそれなりの良さもある。要は相性と何を再生したいかでスピーカー選びが変わってくる。
ところでソナスファベールの「Homage Series」に属するスピーカーはどれもバイオリンの名器の名前を与えられている。Stradivari、Amati、Guarneri という風に。ElipsaはCremonaやAuditorと同じ「Cremona Series」のラインナップだ。Cremonaはイタリアの音楽の中心地であって、Stradivarius、Amati、Guarneriなどのバイオリンの名器が生まれた場所としても有名。
Vienna Acousticsの製品はウィーンに縁の音楽家の名前が付けられている。Beethoven、Mozart、Mahlerというように。そして最新のハイエンドラインナップは、これまたウィーン縁の画家クリムトに肖って「The Klimt Series」と呼ばれ、製品には「The Music」や「The Kiss」などクリムトの代表作の名称を与えられている。
このように製品の名前によってユーザーに対して強烈なイメージを植え付ける事ができる。「ああ、名器ストラディヴァリウス並みに素晴らしい音なのだろう」「ベートーベンの音楽のようにスケールの大きな音がするんだろうな」。実際日本ではクラシック音楽の作曲家の名称が付いているとジャズ愛好家には無視されるという理由で、Beethoven Concert GrandはT-3Gなどという無機質な名前に改名させられている。マーケティング的観点から見れば正しいのだろうが、もっとセンスの良い名前にできなかったのだろうか。
ところで、Elipsaは元々「楕円」を意味する「Ellipse」から由来した名称で、言うまでもなく上から見ると楕円形のエンクロージャーから取った名前だ。そのスピーカーの特徴であるユニークなエンクロージャー、そしてその言葉自体の音の響きなどから考えると悪い名前では無いと個人的には思う。ただ巷ではバイオリンの名前が付いていないのを残念がる人がいるようだ。
ただソナスファベールのスピーカーでバイオリンの名称を与えられている3モデルのうち、AmatiとGuarneriはリュートをモデルにしたデザインなのであって、何故バイオリンの名称が与えられているのか不思議である。Stradivariはバイオリンやチェロなどのハーモニックプレーンをヒントにデザインされているので、Stradivariという名称は正しい。やり直せるなら、きっとElipsaにもバイオリンの名称を与えたかったのでは無いだろうか。
Elipsaで奏でるチェロの響きを聴きながら、そんなくだらない事を考えていた。