先日 McIntosh MVP871 で特定のCDを再生すると音が止まったりする不具合について書いたが、直すのも癪なので適当な DAC を探していた。2チャンネルオーディオにはこれ以上あまりお金を掛けたく無かったので手頃な価格帯で色々調べたところ PS Audio の Digital Link III の評判が良かった。いつものオーディオ屋では取り扱っていなかったので調べたら、何と道を挟んで反対側の店で取り扱っていた。
日本ではほとんどの場合、店頭で馴染みの無い部屋、馴染みの無い機器、そして手持ちのCDが無ければ馴染みの無い曲に録音で試聴して判断しなければならず実質的には何の参考にもならないが、ここアメリカでは何を買っても返品ができるので、いきなり買って自宅で試す事ができる。気に入らなければ返品すれば良いだけだ。
早速購入して自宅で試す。接続は MacBook Pro(iTunes) → 光 → Digital Link III → RCA ケーブル → McIntosh C2300 という具合。比較として同じアルバムを McIntosh MVP871 で CD と SACD を再生する。まず気付くのは Digital Link III (以降 DLIII)の出力レベルが MVP871 より高いこと。C2300 側では接続されている機器ごとにレベルの調節ができるので、DAC は -4.0dB にて設定。これで両者同じ出力レベルになった。
試聴の方法はCDとiTunesの両方で同じ曲をほぼ同時に再生し、A/B 切り替えで聴き比べるというもの。DLIIIは24bit/192kHzでセット。最初に聴いたのはヒラリー・ハーンの最新アルバム(CD)。まずはDLIIIを聴く。MVP871で聴く音よりも分厚く暖かい音だ。30秒ほどでMVP871に切り替える。すると音はいきなり明るくギラギラした、正にデジタル臭い音が出てきた。驚いた。いつもこんな音で聴いていたのか?DLIIIに切り替える。凄い。バイオリンの音が全くきつくなく、人の声も自然で暖かい。MVP871に切り替えるとバイオリンの音はギンギンするし、やはりもの凄くデジタル臭い。
参った。今まで聴いていた音は何なんだろう、というくらいに圧倒的に違う。ショックと同時に大変嬉しかった。
他の曲はどうだろう、と次々に色々なジャンルの音楽を聴いたが、結果は同じ。DLIIIの音はアナログのそれにとても近い。アナログと比較するとアナログの方が弦の音に実体感があるが、どちらが良いかと聴かれると答えに困るレベルだし、アナログは捨てても良いと思えるくらいだ。
ではSACDとの比較では?結論から言うと甲乙付けがたい。これもショックだった。SACDはCDと比較すると一般的に音が柔らかく空間に消え入るような美しい空気感が売りだが、DLIIIはそれに限りなく近い表現をする。2チャンネルオーディオにおいてはSACDとDLIIIの差は見つけにくく、言われなければどちらなのか判別に困るくらいだ。やはりSACDの神髄はマルチチャンネルにある。マルチチャンネルだけはアンタッチャブル、2チャンネルオーディオは逆立ちしても勝てない。
MVP871はCDの再生において惨敗し、SACDの再生においても絶対優位に立てなかった。iTunesとDLIIIのコンビでSACD並み、アナログ並みの音が出せるということは、MVP871は完全にお払い箱ということだ。CDの再生に難が無ければ明日にでも売っ払うところだ。
MVP871は日本で定価66万円、こちらでも$5,500するレッキとしたハイエンド機。それだけ聴けば特に不満は無いが、専用DACと比較すると太刀打ちできない。McIntoshというメーカーはやはりアンプとプリアンプ、そしてプリメインアンプ以外はいらない。所詮中身はDenonなのだ。オーディオの多くはその価格の根拠となるものが全く分からないものが多くある。McIntoshの場合はガラスプレート代と言いたいのだろう。
それにしてもPS Audio Digital Link IIIは優秀だ。これが$700で手に入るなんて安い。DACもどんどん進化するが、これくらいの値段なら新しいモデルが出るたびに買っても良い。PCオーディオの圧倒的な利便性を考えると、2チャンネルオーディオにおけるソースは今後PCオーディオが主流になるのは間違さそうだ。