今回はMinima AmatorとElipsaとの比較。ブックシェルフとフロア型の異種格闘技だ。基本的に私はクラシックを聴くならフロア型にしなさい、と人には勧めている。フロア型でないとダメだと言う理由は主に音数とスケールだ。ブックシェルフとフロア型を聴き比べれば分かるが、ブックシェルフだとあるべき楽器の全てが聴こえない場合が多い。室内楽でもオーケストラでもピアノソロでも、ブックシェルフで聴くのとフロア型で聴くのとでは音数が圧倒的に違う。ブックシェルフを聴いていてフロア型に切り替えた途端に「ああ、ここのパッセージにはずっとコントラバスが静かに鳴っていたんだ」と気付かされたりする、あれである。
この音の差は「好みの問題だ」と言う事もできる。実際にブックシェルフを好んで使うオーディオファイルは「2ウェイブックシェルフの音と鳴り方が好きだ」と言う。しかしそれはあくまでも「オーディオの世界」に限った話。生演奏と比較すれば、ブックシェルフの音は「オーディオ的な美音」なのであって、生演奏の音を再現できているとは到底言い難い。ただこの辺はオーディオに何を求めるかで選ぶ機器の方向性が変わるので、何が正しいという考え方は適当でない。
Minima AmatorとElipsaとの比較でもやはり「ブックシェルフ対フロア型」の違いが目立った。Minima Amatorで聴くピアノやバイオリンはとても美しく、Elipsaで聴くそれよりも「好みだ」と言う人は必ずいる。しばらくMinima Auditorで聴いたあとElipsaに切り替えると、スケールがとたんに大きくなる。Minima Auditorがアップライトピアノの小気味の良い音ならば、Elipsaは正にコンサートグランドピアノ。ピアノの響きや味わいと言ったところは、やはりElipsaの方に分がある。
女性ボーカルに関してはピアノや弦よりもハッキリと好みが別れるはずだ。Minima Auditorで聴く女性ボーカル物はボーカルが非常にハッキリと前面に出てくる。女性ボーカルの美しさはピカイチだと感じる。Elipsaで聴く女性の声はMinima Auditorよりも若干渋く大人びて聴こえるが、他の楽器、特にベースの音がMinima Auditorと比較すると圧倒的なので相対的にボーカルが目立たない。ボーカル物に何を求めるかによって、好みは別れるだろう。個人的には声を聴くならMinima Auditorの方が好みだ。
男性ボーカルになると、Elipsaの方が圧倒的に上。男声の力強さや暖かさが非常にうまく再現される。Minima Auditorだと男性の声が頼りなく細くなってしまう。テノールなど迫力を感じない。同じ「ボーカル」と言っても、随分違うのが興味深かった。
Elipsaの美点はフロア型に関わらず、ブックシェルフの長所である小気味良さも持ち合わせているところだ。Vienna AcousticsのBeethoven Concert Grandでは、ボーカル物をかけると声の低い成分がウーファーへと漏れ出し明瞭感がイマイチな場合が多い。人はこれを「ボワボワ」と表現するが、まさにそういう音になる事がある。もっともこの「味」はオーケストラをかけると途端に「美点」となるので、スピーカー造りは難しい。Elipsaの場合、ボーカル成分の低域への「漏れ出し」を感じない為にMinima Auditorに切り替えても違和感が無い。ソースによってElipsaはフロア型にもブックシェルフにも化ける万能スピーカーだと感じた。
「どちらか選べ」と言われれば間違いなくフロア型であるElipsaを選ぶが、こうして色々聴いてみるとやはりスピーカーは色々あった方が楽しめる。真に万能なスピーカーと言うのは恐らくこの世に存在しない。ソース、気分、意図による使い分けができれば、それ以上の楽しみ方は無い、そう再確認する今日この頃である。