「Rapperのオーディオ選び」で書いた友人宅へお邪魔した。彼はまだ引っ越したばかりで家の中が片付いていないので、オーディオのセッティングも仮の状態となっている。MA7000を載せている台もその辺にあった板を重ねただけという状態だ。彼はカーオーディオはやっていたがホームオーディオは初めて。初めてなのにかなり思い切った買い物をしたと思う。
現時点での機器の構成はSonus faber Cremona M、McIntosh MA7000、ソースにMac mini(最新型)、そしてDACは私が貸しているKeces。DACは私の物と同じPS Audio DigitalLink IIIを注文しているが1ヶ月以上納品が先という事でKecesを貸している。
Cremona Mが来てから3週間目。ほぼ毎日2時間以上鳴らしていて初期のエージングは大体済んでいるとの事だが、聴いた感じまだエージングは済んでいないようだった。ここはマンションなのでなかなか大きな音で聴けない事が原因らしい。Cremona Mに採用されている金属ウーファーはエージングに時間がかかるので、左右逆相で向かい合わせて実行するエージング方法を教えておいた。
彼は主にR&Bやラップばかり聴くので私とは全く音楽の趣味が合わないが、選んだ機器が私のものとほぼ同じ路線というのが興味深かった。私個人のイメージ的にはラップやR&Bは「ズンドコ」鳴らす音楽なのに、それとCremona Mではどうしても違和感があった。実際に鳴らしてみると低域が足りず、「こんな風に大人しい鳴らし方が好きなの?」という問いに対し「ラップもR&Bもサブウーファーを使って鳴らすのが流儀だから、メインスピーカーで低域は期待していない」との事だった。ただ今はメインシステムにお金を使ったので、サブウーファーが買えるまでの辛抱なのだそうだ。彼が重点に置いたのはボーカルの再現と「明るさ」なのだと言う。ラップは独自の口調が早口で歌われる為に、内側に収束するような鳴り方のスピーカーではなく、セリフの輪郭がハッキリと飛び出して聴こえるタイプのスピーカーの方が良いのだと言う。なるほど、言われてみればセリフがハッキリしていて聴き易い。これにサブウーファーでズンドコを加えれば「ハイエンド・ラップオーディオ」の完成というのもうなづける。
アンプはプリメインのMcIntosh MA7000。これはマッキンの石のプリメインでは最高峰で、片チャンネル250Wの大出力タイプ。その意匠は精悍で、まるでキャデラックのようだ。私の真空管と比べると、やはり石の音という感じがする。音は力強くてCremona Mをどんどん駆動する。とても余裕を感じる音だ。アメリカではソナスファベールを使う人は高い割合でマッキンを選ぶが、個人的にも両者はとても相性が良いと思う。
私はラップを聴いても実は良く分からないので、手持ちのCDを何枚か持って行って聴いてみた。まだ完全にエージングが終わっていないのと、セッティングもまだ未完成という事なので最終結論ではないが、基本的にはElipsaをスケールダウンした感じと言って差し支えないと思う。ただセッティングに比較的シビアで、横の壁や内振りの角度で中央の定位が随分変わる。この辺は広いバッフルのElipsaと違うところで、Cremona Mは部屋の影響を多く受けるタイプだ。
「ちょっとセッティング調整してみていいか」と言う事で、私の聴くラヴェルのピアノを使ってセッティングをしてみた。私がベストだと思うセッティングは彼のものよりも内振り角度が浅いものだ。これはピアノの定位と音の広がりというバランスを考えたもので、実際の演奏で聴こえる聴こえ方にかなり近いものになったと思う。ただ彼がラップに切り替えたところ「少し柔らかくなりすぎる」と言う。彼はボーカルが直接鼓膜を叩くような鳴らし方が好きなので、両スピーカーがちょうどリスナーの耳を向く角度じゃないと物足りないらしい。
ところでCremona MとElipsaは音はとても似ているが、一点違うところがある。それはCremona Mの音には湿度が感じられないことだ。ソナスファベールのHomageシリーズの音の特徴は湿度、すなわち「濡れた」感じだと個人的に思っているが、Cremona Mにはそれがほとんど感じない。感じるのは開放的な明るさだ。ElipsaもHomageシリーズと比較すると開放的な明るさが特徴だが、Cremona Mをじっくり聴いて初めてElipsaには「湿度」が備わっていることが分かった。CremonaシリーズとHomageシリーズの特徴を持ち合わせているという点で、ElipsaはCremonaとHomageの橋渡し的な音作りになっているのだと認識を新たにした。
サブウーファーが注文できるまであと2ヶ月ほどかかるらしい。その頃にまたお邪魔してみようと思う。