ピアノ録音が美しいHyperionレーベルから。Angela Hewittのベートーヴェンピアノソナタ集はVol. 1 から Vol. 3まであるが、Vol. 1と2はSACDが出ているのに、Vol. 3はCDのみ。何とも残念。
Angela Hewittはイタリアの高級ピアノである「FAZIOLI」を使用しているが、これらの演奏もFAZIOLIだ。モデルはよく分からないが、以前映像で見た限りでは一番大きい「308」に見えた。これは家が買える程のお値段である。
このピアノは「ポーン」と言った感じのいかにもハンマーで叩いたような拳の入った音がすると言うよりも、雰囲気と響きで鳴らすタイプに聴こえる。実際に聴いた事が無いので何とも言えないが、録音を聴く限りではそういう印象。オーディオ的にはきっとスタインウェイの方が「聴き栄え」がするかも知れない。しかし個人的には雰囲気で聴かせる楽器や音楽は好きだ。
ここで本題だが、このディスクはSACDなのでマルチチャンネルで聴いている。きちんと録音されたマルチチャンネルで聴くピアノというのは実に素晴らしい。このSACDも録音は1:1:1で、前方3チャンネルが同等だ。ピアニストはセンターに存在し、響きの成分がL/Rチャンネルに広がる。そう、主役はセンターチャンネル。生演奏でもリスナーはピアニストの方を向きピアニストを視界の中央に置いているはずなので、この聴こえ方は正しい。ピアノの音はあくまでも「視界の中央から分散する」聴こえ方をするのであって、決して「左右のスピーカーから放射された音が中央で合成・定位」するのではない。音質以前の問題で、再生方式においてマルチチャンネルというのは最も有効に「本物」を再現する方式だ。この聴こえ方を知ってしまうと2チャンネルで鳴らすピアノが嘘くさくてガッカリする。そう言う意味で、Vol. 3がCDのみになってしまった事をとても残念に思う。HyperionもSACDから撤退してしまったのだろうか。
しかしマルチチャンネルでピアノを聴いていると、再生技術もここまで来たか、と感無量になる。SACDをかたくなに出し続けているレーベルには頑張ってもらいたいし、私も積極的に買ってサポートしたい。