Wadia 170i Transportを買った。これは数年前に出た製品だが一応まだ現行機種。ただ価格は171iが出たので大幅に下がって、今では$199(1.5万円)となり、やっと適正価格になったと感じて購入に踏み切った。私は別に自分をケチだとは思わないが、物には「適正価格」があるのでそれをあまりに外れた製品はなるべく手を出さないようにしている。第一この製品はiPod/iPhone内のデジタルデータを右から左へ通すだけの装置なので、ライセンスさえ受ければ誰でも作れる簡単な代物だ。iPodはそれこそ世界最先端技術のカタマリであって、ディスプレイからCPU、その他半導体、そして高度なソフトウェアを開発するのに何千人という世界最高レベルの頭脳が結集された製品で、そんなiPod/iPhone本体よりも170i Transportの方が何倍も高い価格設定だったのは常識的に考えておかしい。
さて、このトランスポートはデジタル信号をiPod/iPhoneから読み取り、それをそのまま同軸でDACへ送る装置で、それ以上でもそれ以下でもない。筐体はアルミ製で、脚はゴム。iPod/iPHone接続端子はWadiaだから高級、と言う事もなく、普通のクオリティの端子であり、iPod/iPhoneのモデルに合わせて交換するアダプターも普通の白いプラスチック。オーディオに高級感を求める人には物足りない造りであることは間違いない。そして中国製なので、それだけで音が悪いと決め付けてしまいたくなる人もいるだろう。
音質の方は170iがどうのという事ではなく、当たり前だが結局はDACの性能で決まる。私の耳にはMac→光→DACとCDP→光 or 同軸→DACとiPhone→170i→同軸→DACの差は検出以下であった。デジタルとはそんなものであって、後は気分の問題。気分が音質を左右するのは事実であって、信じたいように信じればいいだけだと思っている。ちなみに私は寝室のシステムにつないで一日の始まりと終わりに聴くのに使っている。こういうお気楽オーディオは実にシンプルでいい。消費電力もたったの6ワットだ。
それにしてもオーディオメーカーは商売がしにくい時代になったとつくづく思う。今でも70年代のオーディオを愛用している人は多いが、結局アンプなどの技術は既に枯れた技術で70年代の製品でも最新のものと比較してもちっとも引けを取らない。ただ商売なのでどんどん名前だけの新技術を搭載したり意匠を工夫して高級化したりパワーを上げたりと、本質とは離れた小手先の商売で生き残ろうとしている。アンプなどは乱暴に言ってしまえば誰でも造れる製品であり、オーディオメーカーはスピーカー造り以外にあまり存在価値がなくなって来たと感じる。そう言う時代に登場したiPodを始めとするオーディオ製品群は従来からのオーディオメーカーにとっては脅威であって、共存したくない、でも殺せない、という苦しいジレンマの中で生み出された製品がWadia 170i Transportなんだろうと思う。
デジタル音楽はデジタルデータである限り、事実上誰が扱っても同じである。事実、パソコンメーカーが作ったお気軽オーディオ機器が価格が何十倍というハイエンドソース機器と理論上同じ性能を持つような時代が来て、オーディオメーカーは戦々恐々としているに違いない。大体私のiPhoneのオマケ機能として付いているiPodがハイエンド機器と比較される事自体脅威だが、デジタルの時代はそれが当たり前なのだ。